富士松亀三郎『三味線の知識』

三味線は、室町時代に琉球から渡来した蛇皮線(三線)を基として日本人が、それに多くの改良を加え苦辛惨胆の結果、約30年を経て、漸く安土桃山時代に至って完成したものであると書かれている。その操縦の面白さとその応用の広さとのために、江戸時代に至って広くわが国民の間に普及したそうである。

この三味線を『操縦』する、という表現がなんとも、三味線を弾いたことのある者でしかわからない、その言葉の選択であるか。三味線は、革の張り具合、糸の巻き具合、そして、その日の天気、乾燥等の環境によって、音が変化する。そのいくつもの不確実性の要素を鑑み、糸の巻具合、駒の位置等変化させて自分の良いと思う音が出るよう、そう『操縦』する。現在のAIを取り入れれば、湿度、天気を感知し、糸の巻を自動的に行うことも、もしかしたら、可能であるのかもしれない。いつも同じものをよしとするのであれば、それは有効なことかもしれない。

しかしながら、この不確実な環境のなか、もっとも不確実な人間が、自分の環境下で三味線を弾く。おそらく、その奏でる音は、日々変わり、移ろう、ゆらぎあるものになるのであろう。コンピューターに支配されない自然が作り出す音色に、人は、心地よさを感じる。今日も、三味線のご機嫌を見ながら操縦するのである。昨日とは違う音色である。